本作の難易度を跳ね上げている最大の要因は、二人の歌唱スタイルが単なる「高い歌」「低い歌」の枠に収まらない点にあります。それぞれのパートにおける技術的ボトルネックを紐解きます。
まず大森元貴パートですが、最大の特徴は「チェストボイスからヘッドボイスへの継ぎ目のなさ」です。Bメロからサビにかけて、mid2F#(F#4)からhiA#(A#4)へと一気に駆け上がるフレーズでは、叫ぶような張り上げ発声(プル)をすると後半で声帯が疲弊し、ピッチがフラットします。大森本人は声帯閉鎖を保ったまま共鳴腔を鼻腔へとシフトさせる洗練されたミックスボイスを駆使しており、ファルセットのhiD#(D#5)に至るまで音色の統一感を損ないません。
対する井上苑子パートは、女性ボーカルとしては「低音域の安定感」が最初のハードルです。Bメロやハモリの導入部で現れるmid1G#(G#3)付近は、女性の骨格では声量が落ちやすく、伴奏の豊かなストリングスやピアノに埋もれてしまいがちです。さらにサビ後半ではhiD#(D#5)の地声を力強く響かせた直後に、ハモリパートとして大森の旋律の上を舞うhiF(F5)の裏声へ跳躍します。低音の厚みと高音の透明感を瞬時に切り替えるテクニックが不可欠です。