セ・リーグにおいてDH制の導入が見送られ続けている最大の理由は、「野球本来の美学と戦術的駆け引きの維持」を掲げる反対派の主張と、「球団経営・選手構成における利害の不一致」が重なっている点にあります。
セ・リーグの理事会やオーナー会議において、DH制導入に関する議論は幾度となくテーブルに載ってきました。しかし、規約改正を進めるためには加盟球団の強固な合意形成が前提となります。伝統的な9人野球を重んじる阪神タイガースや広島東洋カープ、中日ドラゴンズなどのファンベースおよび球団幹部からは、「投手が打席に立ち、送りバントや代打のタイミング、二重交代などを駆使する緻密な野球こそがセ・リーグのアイデンティティである」という意見が根強く主張されてきました。
さらに現場レベルの思惑として、ロースター枠の運用と年俸総額への影響が挙げられます。DH枠を専任またはローテーションで活用できる強打者を1人増やすことは、選手層の厚い球団には有利に働く一方、選手年俸の総額を抑えながら自前の育成力で勝負する球団にとっては、戦力差を広げられるリスクとなり得ます。このように、単なる試合形式の変更にとどまらず、各球団の補強戦略や経営基盤の違いが導入見送りの決定打となっています。