フランクリンの道徳的教訓だったこのフレーズが、なぜ肉体トレーニングの代名詞へと変貌したのでしょうか。契機となったのは、1980年代前半に巻き起こった世界的なエアロビクスブームです。女優ジェーン・フォンダ(Jane Fonda)が1982年に発売したワークアウトビデオの中で「Feel the burn! No pain, no gain!(筋肉が燃えるのを感じて!痛みなくして前進なし!)」と叫んだことで、世界中のジム文化へ爆発的に浸透しました。同時期にアーノルド・シュワルツェネッガーをはじめとするボディビルダーたちも好んで引用し、「筋肉痛で動けなくなるまで追い込んでこそ一人前」というカルチャーが固定化されたのです。
しかし、運動生理学およびバイオメカニクスが飛躍的に進展した2026年現在、この古典的なスローガンは「条件付きでしか適用できない危険な神話」として厳しく精査されています。
近年の筋肥大研究(メカニカルテンションや筋線維の動員に関する論文群)によれば、筋肥大を誘発する最大因子は「適切な力学的負荷(メカニカルテンション)」と「十分なボリューム」であり、激しい痛みや筋線維の過度な断裂そのものが成長を保証するわけではありません。スポーツ医学の臨床現場では、アスリートに対して「痛みの種類を峻別せよ」という明確なガイドラインが提示されています。
筋トレにおいて受け入れるべきなのは、乳酸蓄積や代謝ストレスに伴う一時的な「パンプ感・筋疲労(Good Pain)」のみです。関節、腱、靭帯の痛みや、鋭い局所的な電撃痛(Bad Pain)は、腱板断裂や腰椎椎間板ヘルニア、オーバートレーニング症候群の前兆であり、これを無視してトレーニングを強行することは単なる自傷行為にほかなりません。「痛いほど効いている」という短絡的な思い込みは、現代のフィットネス界では時代遅れの悪弊として退けられています。