消波ブロックの危険性がこれほど叫ばれているにもかかわらず、なぜ消波ブロックでの釣り事故は毎年後を絶たないのでしょうか。その背景には、釣り人を惹きつけてやまない海中環境の皮肉な現実があります。
消波ブロックが形成する複雑な陰影と適度な潮通しは、海洋生物にとって最高の住処となります。ブロックに付着した海藻や貝類を求めてカニやエビが集まり、それを捕食するためにクロダイ(チヌ)、カサゴ、キジハタ、シーバス、アオリイカなどの好ターゲットが濃密に集結します。釣り人の間では「テトラの穴撃ち」「テトラ際」は屈指の好ポイントとして知られており、釣果への強い執着が危険予知の意識を麻痺させてしまうのです。
水難事故の現場取材や救助関係者の証言からは、転落事故が起きる典型的なパターンが浮き彫りになっています。
「ブロックの上面は乾いていて安全そうに見えても、海水が打ち寄せる下段は濡れた海藻や微細な苔でスケートリンク並みに滑る。大型魚が掛かってタモ網を使おうと身を乗り出した瞬間や、濡れた足場を踏んだ瞬間に足元をすくわれ、受け身も取れずに隙間へ滑落するケースが大半を占める」(現場を知る海上保安庁関係者の証言)
さらに事態を悪化させるのが、釣り人の装備と単独行動です。一般的な靴底のスニーカーは海藻の上では全くグリップが効かず、フェルトスパイクシューズを履いていてもブロックの斜度や丸みには対応しきれません。また、高額な釣り竿やクーラーボックスをかばおうとして両手がふさがり、頭部から隙間に激突して即座に気絶するケースも多発しています。一度隙間の奥深くに挟まれてしまえば、同行者がいても腕一本で引っ張り上げることは不可能です。大型重機や専門のレスキュー隊が到着するまでの数十分の間に、満潮を迎えて水没してしまうという過酷な現実が存在します。