「医食同源」という四字熟語を漢文の古典や中国の古い医学書から探そうとしても、見つけることはできません。なぜなら、この言葉が世に現れたのは1972年(昭和47年)、日本のテレビ番組がきっかけだったからです。
提唱者は、当時医療の現場で生活習慣病の予防に取り組んでいた臨床医の新居裕久(にい・ひろひさ)氏です。新居医師がNHKの料理番組『きょうの料理』の特集「40歳からの食事」において、生活習慣病予防と食生活の密接な関係をわかりやすく国民に伝えるために発案・発表したのが直接の起源とされています。
当時、高度経済成長を経て日本人の食生活が欧米化し、脳卒中や糖尿病などの成人病が急増していました。病気になってから投薬する西洋医学の対症療法に限界を感じていた新居医師は、中国伝統医学(中医学)に古くからある「食薬同源(あるいは薬食同源)」という思想に着目。「薬」という言葉が持つ生薬や苦い薬という限定的なイメージを、日々の医療や養生全般を指す「医」に置き換えることで、「日頃の食事こそが医療の原点である」というメッセージを直感的に伝えようと試みたのです。
このキャッチーで本質を突いた造語は、1970年代から80年代にかけて瞬く間に日本国内へ定着しました。さらには2000年代以降、発想の元となった中国へ「医食同源」という言葉自体が逆輸入され、現地の健康関連メディアやレストランでも使用されるという逆転現象まで起きています。「中国伝来の故事成語」というイメージは、言葉の響きの格調高さが生んだ愛すべき誤解だったといえます。