『2億4千万の瞳』を語るうえで外せないのが、国鉄キャンペーンソングとしての使命です。1980年代半ば、日本国有鉄道(国鉄)は累積赤字の増大に苦しみ、1987年の分割民営化(JR発足)を目前に控えた極めて危機的な状況に置かれていました。起死回生の一手として電通などのクリエイティブ陣と共に打ち出したのが、1984年春の観光誘致プロジェクト「エキゾチック・ジャパン」でした。
この「エキゾチック・ジャパン」というキャッチコピーの由来には、当時の日本人特有の海外志向へのアンチテーゼが込められています。ドル高・円安傾向が落ち着きを見せ、若者を中心に海外旅行ブームが過熱していた時代にあって、「見慣れたはずの日本列島こそが、最も異国情緒(エキゾチック)に満ちた未知のワンダーランドである」という強烈なパラダイムシフトを提示したのです。
歌詞の意味を深く読み解くと、歌詞中に登場する「億万の光」「見つめ合う視線」は、列車の車窓から流れゆく街の灯や、旅路で交差する人々の情熱を描いています。作詞の売野雅勇は、哀愁を帯びた歌謡曲の伝統に都会的なビートを融合させ、作曲の井上大輔(元ジャッキー吉川とブルー・コメッツ)は、一度聴いたら脳裏から離れない重厚なブラスロックを構築しました。国家的インフラの再生という巨大な重圧を背負いながら、それを圧倒的な祝祭感へと反転させた制作陣の手腕は、広告音楽史における奇跡的な達成と言えます。