この歴史的な当たり役は、最初から約束されていたポジションではありませんでした。木南晴夏がオーディションを受けた当時の年齢は22歳から23歳。高校生役を演じるにはやや年上であり、当時はアイドルユニット活動やバラエティ番組の出演を経て、女優としての明確な突破口を見出せずにいた、いわばキャリアの正念場でした。
当時の特番インタビューや本人の回想によると、実はオーディションの直前、自信の喪失と激しいプレッシャーから「自分には無理ではないか」と辞退を考えた局面すらあったと明かされています。しかし、チャンスを掴むため、彼女が選んだアプローチは常軌を逸した集中力による役作りでした。
木南は『20世紀少年』の単行本を徹底的に読み込み、小泉響子が登場するコマをすべて拡大コピー。自宅の鏡の前に貼り出し、響子のあらゆる表情パターンを鏡を見ながら何百回、何千回と練習しました。「どの筋肉を動かせば、漫画のあの困り顔になるのか」を解剖学的に自らの顔面へ叩き込んだのです。
オーディション本番、演出陣の前に立った木南晴夏が原作そのままの「間抜け面」と「パニック顔」を披露した瞬間、審査室の空気が一変しました。メガホンを取った堤幸彦監督をはじめとする選考陣は、その場にいた全員が即座に「小泉響子が見つかった」と確信。難航していたキャスティングにおいて、異例の満場一致で抜擢が決まった瞬間でした。