ブラックバス釣りの歴史において、神聖視されてきた伝説の数字が存在する。1932年6月2日、アメリカ・ジョージア州のモンゴメリー湖でジョージ・ペリー氏が手にした22ポンド4オンス(約10.09kg・全長82.5cm)という記録だ。大恐慌のさなか、家族の食卓を支えるために持ち帰られたその巨大バスは、以来70年以上もの間、いかなるトッププロや大富豪アングラーが挑んでも決して届かない「釣り界のエベレスト」と呼ばれていた。
その絶対的な壁を打ち破ったのが、滋賀県在住のアングラー・栗田学氏だった。2009年7月2日、琵琶湖でキャッチされた魚体は、全長73.5cm、胴回り65cm、重さ10.12kg(22ポンド4.97オンス)。数字だけを見れば、ペリー氏の記録を約30グラム上回る堂々たる数値である。しかし、国際的なゲームフィッシングの記録統括機関であるIGFA(国際ゲームフィッシュ協会)が下した最終判定は、「単独世界新記録」ではなく「オールタックル世界タイ記録」であった。
この判定の背景には、IGFAが定める極めて厳格なレギュレーションが存在する。重量が25ポンド(約11.33kg)未満の魚種において単独の世界新記録として公認されるためには、「既存の記録を2オンス(約56.7g)以上上回らなければならない」という規定が定められている。栗田氏の魚はペリー氏の記録を約1オンス上回っていたものの、この2オンスの差分規定にわずかに届かなかったため、公式ルールに則り「世界タイ記録」としての認定となった。単独記録でないとはいえ、77年間誰の手にも届かなかった神域の扉を開いた事実に変わりはなく、世界の釣魚史におけるエポックメイキングな事件となった。