熊による創傷は、単純な切り傷や刺傷とは根本的に異なる。牙と爪による「挫滅弁状創」であり、組織が引きちぎられ、不規則に断裂している。そのため、生半可なガーゼ圧迫では深部の動脈出血を止められない。止血用ガーゼ(ヘモスタティックガーゼ)を傷口の奥深くまで隙間なく詰め込み、その上から強固に圧迫固定するパッキング技術が、病院外でのプレホスピタルケアにおいて極めて有効となる。
また、搬送手順における最大の落とし穴が「低体温」と「感染」の見落としだ。山林や渓流沿いでの受傷では、失血とショック、冷たい外気によって急速に体温が奪われる。体温が35度を下回ると血液凝固機能が破綻し、どれだけ圧迫しても血が止まらなくなる悪循環に陥る。現場では速やかにエマージェンシーシートや乾いた衣類で全身を覆い、体温保持を徹底しなければならない。
厚生労働省や日本救急医学会が推進する地域連携体制においても、ドクターヘリの要請基準の明確化が進む。山間部での救急要請時には、正確なGPS座標の伝達と同時に「熊による多発外傷・大量出血」であることを119番通報時点で明確に告げることが、輸血製剤を搭載したヘリの早期出動を促す鍵となる。