作中に登場する「大渡海」という辞書そのものは架空の存在であり、書店で「大渡海」という名前の辞書を購入することはできません。しかし、その基本設計やコンセプトには、実在する代表的な中型国語辞典のDNAが色濃く受け継がれています。
大渡海のスペックとして明かされている最大の特徴が、「見出し語25万語」を収録する中型辞書という点です。日本の辞書界において、この規模感に合致する代表格が以下の辞書群です。
現代語や俗語、サブカルチャー用語、IT用語までを積極的に拾い上げる大渡海の編集方針は、小学館の『大辞泉』のスタンスに極めて近い特徴を持っています。『大辞泉』は新語の採集に非常に意欲的で、時代ごとの生きた言葉を貪欲に収録することで知られています。
一方で、一冊で言葉の海原を渡りきる重厚な佇まいや、日本語の歴史的変遷を網羅する権威ある存在感という側面では、岩波書店の『広辞苑』(収録語数約25万語)や三省堂の『大技林』の系譜を色濃く引いています。つまり大渡海は、「『大辞泉』の現代的で実用的な語彙感覚」と「『広辞苑』が持つ圧倒的な風格・信頼性」を理想的に融合させた究極の中型辞書として生み出されたのです。