痛むのが怖くて何年も放置していると、別の深刻なトラブルを引き起こします。へそのごまの正体は、剥がれ落ちた古い角質(垢)、皮脂腺から分泌された皮脂、汗、そして衣服の繊維くずが混ざり合ったものです。窪んだ形状と体温による適度な温湿度が保たれるおへそは、皮膚常在菌にとって格好の密閉繁殖環境となります。
悪臭の主因は、皮脂や垢に含まれるタンパク質・脂質成分を、表皮ブドウ球菌やコリネバクテリウムなどの細菌が分解・酸化させる過程で生じる低級脂肪酸です。これは足の裏の臭いや古いチーズの異臭と類似した強烈な揮発性物質であり、放置するほど臭気の強度は増していきます。
さらに長期間にわたり汚れが蓄積し、皮脂と角質が石灰化・硬度を増しながら層を成していくと、「臍石(さいせき)」と呼ばれる黒褐色〜褐色の巨大な塊へと変化します。診察現場では、直径1〜2センチメートル以上の硬い塊がおへその奥に固着し、自力での除去が不可能な状態になって駆け込む患者の例が皮膚科や形成外科で定期的に報告されています。
臍石が周囲の皮膚を圧迫し続けると、血流障害や慢性のびらん(ただれ)が生じ、黄色ブドウ球菌などの細菌が侵入して「臍炎(さいえん)」を発症します。臍炎に陥ると、悪臭を伴う黄色い膿(浸出液)の流出、へそ周辺の発赤、熱感を伴う強い拍動痛が現れ、抗生物質の投与や外科的な摘出処置が必要になります。