席に着くなり、誰もがまず手を伸ばす銀色のポットがある。中に入っているのは、透き通るような白さが美しい自家製のイカの塩辛だ。一般的な塩辛のような塩角や生臭さは一切ない。ほんのり香る柚子の爽やかさと、イカ本来のコリコリとした歯ごたえ、そして優しい麹の甘み。天ぷらが揚がる前だというのに、運ばれてきたばかりのどんぶり飯がみるみるうちに減っていく。
この塩辛、実は保存料を使わず毎朝丁寧に仕込まれる代物。高菜漬けや生姜の甘酢漬けとともに卓上に惜しげもなく置かれ、天ぷらという油ものを迎え撃つための完璧な布陣を敷いている。天つゆに浸した大根おろしと塩辛を交互に口へ運ぶ背徳感。メインの天ぷらが届く前にご飯をおかわりしてしまう客が続出するのも無理はない。