哲学史において「円環」は、人類が時間の本質や存在の苦悩を説明するために用いてきた極めて重要なモチーフです。
古代エジプトやグノーシス主義では、自らの尾を咥えて環となった蛇「ウロボロス」が「完全性」「無限」「自己完結した世界」の象徴として描かれました。東洋においては、生ある者が迷いの世界で生死を繰り返す「円環輪廻(サンサーラ)」として認識され、そこからいかに脱出(解脱)するかが探求されてきました。
近代思想においてこの構図を一変させたのが、ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェが提唱した円環永劫回帰(Ewige Wiederkunft)です。
ニーチェの円環哲学は、「宇宙のエネルギーが有限であり時間が無限であるならば、今生きているこの瞬間と全く同じ人生が、寸分の違いもなく永遠に繰り返される」という過酷な世界観を提示します。キリスト教的な「最後の審判に向かう直線的な救済」を真っ向から否定し、意味のない円環の反復に直面してもなお、「これが生か、ならばもう一度!」と自己の生を全面的に肯定する強靭な精神(超人)を説いたのです。