中森明菜の歴代CMを振り返る上で、1980年代のカルチャーシーンに刻み込まれた名作群を外すことはできません。なかでも「中森明菜 CM 明治」として記憶される明治製菓のシリーズは、清純派アイドルから大人の表現者へと脱皮する過程を克明に記録した記念碑的コマーシャルでした。
「ラ・テーム」や「明治ミルクチョコレート」「アーモンドチョコレート」の画面に映る彼女は、カメラを射抜くような涼やかな視線と、どこか憂いを帯びた微笑みで世の若者を釘付けにしました。当時の制作スタッフの回顧録によると、少女らしい明るさを求める広告代理店の意向に対し、明菜自身が「甘いチョコレートだからこそ、大人のほろ苦い表情を見せたい」と提案したとされています。このエピソードは、デビュー初期からすでに自らのパブリックイメージを俯瞰し、演出する天才的なディレクション能力を備えていたことを物語っています。
さらに「中森明菜 CM カネボウ」で展開された秋のキャンペーン等では、従来の化粧品CMの常識を覆すファッショナブルで前衛的なビジュアルを披露しました。当時の特番インタビューで語られた「身につける服やメイクの質感ひとつで、声のトーンまで変わる」という生の告白通り、CMタイアップ曲「赤のエナメル」などの先鋭的なサウンドと溶け合い、女性層の憧れのミューズとしての地位を不動のものにしたのです。