香川照之の役者としての凄みは、ジャンルを問わないその変幻自在な演技力にある。西川美和監督の映画『ゆれる』で魅せた、嫉妬と愛情に引き裂かれる兄の心理描写は、日本映画史に残る傑作ヒューマンドラマとして今なお高い評価を受ける。人間の心の奥底に潜む澱みを余すところなく表現する技術は、彼自身の生い立ちと無縁ではない。
さらにTBSテレビの看板枠である日曜劇場『半沢直樹』で見せた大和田常務役は、社会現象を巻き起こした。顔芸とまで称された苛烈なデフォルメの中に、組織で生きる人間の哀哀を滲ませるバランス感覚。これらは、幼少期から母の舞台を見つめ、後に伝統芸能の身体言語を貪欲に吸収したからこそ到達できた境地である。
名優たちの情念を受け継ぎながら、自らの肉体を極限まで追い込むそのアプローチは、映像作品の枠組みを超えて観客の心を揺さぶり続けている。