誰もが王者の防衛を疑わなかった。しかし、格闘技の神様は時に最も残酷なシナリオを用意する。第1ラウンド、互いに距離を探り合う静かな立ち上がりから、事態は唐突に動き出した。挑戦者が放った鋭い左インローが王者の軸足を捉えると、わずかな体勢の崩れを見逃さず、一気に距離を詰めて放った右フックがガードの隙間を完璧に打ち抜いたのだ。
キャンバスに崩れ落ちる王者。静まり返る会場。追撃のパウンドを浴びせる挑戦者を制し、レフェリーが間に割って入った瞬間、新たな歴史のページがめくられた。タイムは1ラウンド2分43秒。勝者の咆哮がドームの天井を揺らし、敗者は虚無の表情で天井を見つめていた。バックステージに戻った前王者は「何も覚えていない。完敗だ」とだけ言い残し、静かに控室へと消えていった。