『魔女の宅急便』を語る上で、アニメーションファンの間で長年議論され続けているのが「魔女の宅急便ウルスラ声優」のキャスティング劇です。主人公キキと森の画家ウルスラは、声質こそ意図的に演じ分けられているものの、いずれも名声優・高山みなみ氏が魂を吹き込んでいます。
当時の制作資料およびオーディション経緯の記録によると、高山みなみ氏は当初からキキ役に決まっていたわけではありませんでした。当初、高山氏はウルスラ役のオーディションを受けて合格しており、先に決まっていたのはウルスラの方でした。一方、ヒロインであるキキ役の選考は難航を極めており、何十人もの候補者をオーディションしても宮崎駿監督が求める「等身大の13歳の揺らぎ」を表現できる声が見つからずにいたのです。
そこで音響スタッフの提案により、スタジオにいた高山氏がキキの台詞をテストで読んだところ、宮崎監督の琴線に強く触れ、急遽キキ役にも抜擢されました。通常であればウルスラ役には別の声優を再キャスティングするところですが、監督は「そのまま両方を演じてもらう」という異例の決断を下します。ここに「高山みなみ一人二役の理由」の真髄があります。
宮崎監督にとって、13歳のキキと18歳のウルスラは「過去の自分」と「未来の自分」という合わせ鏡の関係でした。親元を離れて自活を始めたばかりの不器用な少女が、やがて自分の足で立ち、己の才能と対峙した先に行き着くひとつの到達点がウルスラです。声の根底にある魂のトーンが同一であることは、キキが無意識に自分自身の未来と対話している心理描写として、作品に計り知れない奥行きを与える結果となりました。