ネット上のレシピ情報などで散見される「歯がないなら細かく刻めば大丈夫」という俗説は、命に関わる誤認です。調理学および摂食嚥下リハビリテーションの臨床において、単なる「きざみ食」は最も誤嚥を招きやすい危険な食事形態として警告されています。
細かく刻まれた固形物は、口腔内で唾液と混ざり合ってもひとまとまりの塊(食塊)を作りにくく、パラパラと喉の奥へ散らばって落ちていきます。その結果、気管の入り口に入り込み、むせ込みや不顕性誤嚥(むせる反射すら起きずに肺へ落ちる現象)を誘発し、高齢者の直接的な死因上位である誤嚥性肺炎を引き起こす温床となるのです。
もう一つの重大な盲点が、ミキサーにかける際の「水増し希釈による栄養飢餓」です。固い肉や野菜を家庭用ミキサーにかける際、刃を回転させるために水や出汁を大量に投入しがちです。これにより、見た目の器のボリュームは満杯であっても、本来摂取すべきエネルギーやたんぱく質が半分以下に希釈されてしまいます。満腹感はあるのに体は飢餓状態という「低栄養スパイラル」に陥り、筋肉量が激減するサルコペニアを急速に進行させる要因となっています。