ダ・ヴィンチは単なる画家ではなく、当代一流の数学者であり解剖学者、土木技師でもありました。その論理的思考が遺憾なく発揮されたのが、計算し尽くされた一点透視図法(線遠近法)の消失点の配置です。
画面の天井に並ぶ格間(こうま)のライン、左右の壁面に掛けられたタペストリーの縁、テーブルクロスの端線。これらすべてのパースペクティブの延長線をたどると、その交点は完全にイエス・キリストの右のこめかみへと集約されます。修復時の赤外線調査において、キリストの右こめかみの位置に小さな釘の打ち込み穴が確認されました。ダ・ヴィンチはここに釘を打ち、四方八方へ糸を張って正確無比なパースラインを引いていたのです。
構図の中心に君臨するキリスト自身は、両手を広げた正三角形の輪郭に収まっています。キリスト教における三位一体(父と子と聖霊)を幾何学的に具現化すると同時に、左右で波打つ使徒たちの激動とは対照的な「絶対的な静止」を視覚的に作り出しました。
さらに見逃せないのが、キリストの頭上に描かれるべき「光輪(ヘイロー)」が排除されている点です。中世以来の聖人画では頭の上に金色の輪を描くのが不文律でしたが、自然科学者でもあったレオナルドは非現実的な装飾を嫌いました。その代わり、キリストの背後に3つの窓を穿ち、外から差し込む自然光のバックライトによってキリストの頭部を自然に輝かせるという、極めて現代的なライティング演出を導入しています。