感覚的な思いつきで現場に突撃しても、門前払いを食らうか、警戒されて不自然なデータしか集まりません。プロのリサーチャーが実践する参与観察の進め方は、精緻なプロトコルに基づいています。
最初の関門は、集団の鍵を握る「ゲートキーパー(門番)」へのアプローチです。集団のリーダーや職場の責任者に調査の意義を説明し、組織への出入りを公認してもらう手続きが欠かせません。この段階で不審感を持たれれば、現場へのアクセス自体が永久に閉ざされます。
現場に入った後に最優先すべきは、対象者との間の感情的な信頼の架け橋であるラポール形成です。最初からノートを広げてメモを取ったり、質問攻めにしたりしてはいけません。まずは現場の雑用を手伝い、同じ食事を食べ、相手の苦労話に耳を傾けることで、「この人は自分たちをジャッジしに来た外部の敵ではない」という安心感を醸成します。
そして、観察中および観察直後のフィールドノーツ(現場記録)の作成が調査の生命線となります。現場では最小限の走り書きにとどめ、その日の夜に記憶が鮮明なうちに、会話の一言一句、室内の気温、匂い、当事者の視線の動き、調査者自身の心の動きまでを克明に記録します。この生データをもとに、M-GTA(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)やKJ法を用いて概念化を進めていくのが標準的な流れです。