本作を単なるトレンディドラマの枠組みから不朽の名作へと昇華させた立役者が、卓越した人間観察眼を持つ脚本家・中園ミホです(林誠人との共同執筆)。中園が描く桜子の台詞は、一見すると徹底した拝金主義でありながら、欺瞞に満ちた社会の建前を痛快に打ち砕く鋭利なリアリズムを宿していました。
SNSやファンの間で現在も引用され続ける松嶋菜々子やまとなでしこ名言の代表格がこちらです。
「私の武器はこれ(美貌)しかないんです。10年後には幾千万の男が私をチヤホヤしてくれるかしら? 女が最高値で売れるのは27歳。それが私の哲学よ」
「世の中で一番大切なもの、それはお金です。愛でお腹が膨れますか? 愛で家が買えますか?」
こうした赤裸々な本音を臆面もなく言い切る一方で、彼女の冷徹な計算を狂わせたのが、堤真一が演じる中原欧介の不器用な誠実さでした。元天才数学者でありながら、夢破れて家業の寂れた鮮魚店「魚春」を継ぎ、だましだまし生きていた欧介。桜子が放つ「お金こそすべて」という言葉の裏にある怯えを見抜き、数学者ならではの純粋な眼差しで彼女の内面を肯定していくプロセスが、物語を深い感動へと導きます。
欧介が語る「数学の真理」や「嘘のない生き方」に触れることで、桜子の頑なな心は徐々に融解していきます。中園ミホの脚本の凄みは、金を信奉する現実主義の女と、金を失って真理を探究するロマンチストの男を対峙させ、愛の本質を論理的に再定義した点にありました。