道具で研ぐ前に立ち止まるべきなのは、ハサミの切れ味が落ちる理由の切り分けです。ハサミは包丁と異なり、「2枚の刃がすれ違うときの剪断力(せんだんりょく)」で物を切断します。切れ味が落ちる主要因は、大きく分けて次の3つに集約されます。
第1の原因は「刃の表面への汚れの付着」、とりわけ段ボールの開梱や工作で頻発する粘着テープのベタつきです。アクリル系やゴム系の粘着剤が刃先と刃の合わせ面にこびりつくと、刃同士の密着が阻害され、対象物を切る前に押し倒してしまいます。
このベタつきを落とすために金属タワシや硬いスポンジで擦るのは禁物です。フッ素コートなどを傷つけてしまいます。効果的なのは以下の溶剤を用いた拭き取りです。
- 消毒用無水エタノール:キッチンペーパーや綿棒に染み込ませ、刃の根元から刃先に向けて一方向に拭き取る。大半のテープ粘着剤が瞬時に溶解します。
- ハンドクリームまたは食用油:界面活性剤や油分が粘着剤と馴染み、浮き上がらせる効果があります。塗布して1分放置した後、乾いた布で拭き取ります。
- 消しゴム:軽いベタつきであれば、プラスチック消しゴムで擦るだけで粘着物質を巻き取って除去できます。
第2の原因は、ハサミのネジ調節とメンテナンスの不備です。ハサミの2枚の刃をつなぐ中心軸(カシメやネジ)が緩むと、刃と刃の間にわずかな隙間が生じます。紙を切ろうとしたときに紙を巻き込んで噛んでしまう現象は、刃の摩耗ではなく100%ネジの緩みが原因です。ネジ留めタイプのハサミであれば、マイナスドライバーで時計回りにわずか数度ずつ締め込み、刃を開閉した際に「シャキッ」と適度な重み(テンション)が感じられる位置に微調整するだけで、劇的に切れ味が蘇ります。
第3の原因が、長年の使用による物理的な「刃こぼれや摩耗」です。この段階に至って初めて、物理的な研削工具が必要となります。