なぜ東京の中学吹奏楽コンクールは、これほどまでに過酷なのか。その最大の要因は、全国吹奏楽連盟が規定する代表枠配分の構造にあります。関東他県であれば「東関東支部」「西関東支部」といった広域ブロック大会を経て全国大会へ進みますが、東京は「東京都単独支部」として独立しているため、都大会の最上位2〜3校しか全国へ行けません。
長年コンクール審査を務めるプロ演奏家や大学教授など東京都吹奏楽コンクール中学審査員の講評データを分析すると、評価が跳ね上がる演奏には明確な共通項が存在します。
第一に、「空間音響の計算」です。会場となる府中の森芸術劇場 どりーむホールは、客席数2,000席を超える巨大な多目的ホールであり、残響が豊かである反面、低音楽器の発音遅れや過剰なフォルテによる音の濁りが極めて目立ちやすい構造をしています。審査員席で聴くプロの耳には、力任せに鳴らした金管楽器の破綻や、ピッチが乱れたアタックが如実に届いてしまいます。代表を掴むバンドは、ホールの残響を味方につけ、ピアニッシモでも芯のある豊かな響きをホール全体に均一に行き渡らせています。
第二に、東京都吹奏楽コンクール中学課題曲の解釈力です。多くのバンドが派手な自由曲に練習時間を割きがちですが、審査員が最も厳密に比較できるのは全員が同じ楽譜を演奏する課題曲です。テンポ設定の妥当性、アーティキュレーションの厳密さ、各声部のバランスといった基礎的な約束事を疎かにしたバンドは、自由曲でどれほど難解な大曲を披露しても、総合点で代表の座から滑り落ちる傾向にあります。