胸痛を訴える患者の鑑別において、医療者が最も警戒するのが急性冠症候群(不安定狭心症や急性心筋梗塞)です。心筋梗塞は冠動脈が閉塞して心筋組織が壊死に陥る病態であり、発症からカテーテル治療による血流再開までの時間が予後を直接左右します。
心臓疾患特有の典型的な痛みは、「胸全体の上に重石を乗せられたような圧迫感」「万力で胸を締め付けられるような絞扼感」と表現されます。そのため、針で突いたようなチクチクした局所的な痛みであれば、緊急を要する心筋梗塞である確率は医学的に決して高くありません。しかし、決して例外がないわけではありません。
心筋梗塞の前兆の痛みとして、本格的な発作に至る数日から数週間前に、冠動脈の血流が一時的に低下する微小血管狭心症や冠攣縮性狭心症を起こしているケースがあります。その際、初期には典型的な胸部圧迫感ではなく、「胸の奥がチクチク・モヤモヤと痛む」「息苦しさと同時に左胸が不規則に痛む」といった非典型的な違和感として自覚される事例が、循環器専門医の臨床報告でも示されています。特に高齢者や糖尿病の罹患歴がある患者では、知覚神経の感度が低下しているため、心筋虚血が生じていても痛みがチクチク程度にしか感じられない危険性があります。
以下に該当する胸の痛みの危険なサインが1つでも認められる場合は、一刻の猶予も許されません。躊躇せずに119番による救急要請を行ってください。
- 痛みがチクチクから胸全体の締め付け感・圧迫感へと拡大し、15分以上持続している
- 冷汗をびっしょりとかき、顔面が蒼白になっている
- 左肩、背中、首、下顎、あるいは左腕の内側へと痛みが広がっている(放散痛)
- 安静にしているにもかかわらず強い息切れ、呼吸困難、失神感を伴う