物語の終盤、春は世界を巡る旅の末に重い病(悪性リンパ腫)によって命を落とします。春の父から彼女の最期とカメラを受け取った藤代は、春が遺した写真の数々に触れ、自分がかつて確かに誰かを愛し、そしてその愛から逃げ出していた痛恨の事実に直面します。
過去の亡霊と決別した藤代は、弥生の妹や周囲の手がかりを頼りに、弥生が身を寄せている静岡の海辺の街へと向かいます。防波堤のそば、吹き付ける風の中で二人が対峙するクライマックスは、本作のテーマが結実する極めて重要なシークエンスです。
弥生は藤代に対し、震える声で問いかけます。「私のこと、愛してる?」。かつての藤代であれば、無難な肯定の言葉でその場を取り繕っていたはずです。しかし、藤代が口にしたのは安易な甘い愛の告白ではなく、「愛しているかどうかは分からない。でも、僕はあなたと一緒に生きたい。愛することをやめない」という泥臭くも誠実な宣誓でした。
このラストシーンが示唆しているのは、「愛とは自然発生的に満ち足りて留まる魔法のような感情ではなく、不完全な人間同士が意志を持って選び続け、日々更新していく覚悟である」という現実的な真理です。情熱が冷めることを「愛の終わり」と錯覚していた二人が、幻想を捨てて生身の他者と向き合うスタートラインに立った瞬間であり、本作の結末は極めて前向きで成熟した関係性の再生を物語っています。