またたびの匂いを嗅いだ猫は、顎や頭を擦り付け、床をクネクネと転がり、恍惚とした表情を浮かべます。長年、この反応はマタタビラクトン(イリドミルメシンやアクチニジンなど)が猫の上あごにある「ヤコブソン器官」を刺激し、脳の中枢神経に作用するためだと考えられてきました。
しかし、岩手大学を中心とする国際共同研究グループの発表により、猫の反応を引き起こす最も強力な生理活性物質が「ネペタラクトール」であることが特定されました。この成分が鼻腔内の嗅覚受容体を刺激すると、脳内でオピオイド系(多幸感や鎮痛に関与する神経系)が活性化し、あの独特の陶酔反応が引き起こされるのです。
さらに興味深いのは、猫が体を擦り付ける行動が単なる快感のためではなく、強力な蚊よけ(防虫対策)として機能している点です。ネペタラクトールには蚊(ヒトスジシマカなど)を忌避する高い効果があり、体を擦り付けて被毛に成分を行き渡らせることで、吸血による感染症から身を守る進化適応の結果であると解明されています。
なお、またたびの効果時間は約10分〜30分程度です。一度反応すると神経の受容体が疲労して一時的に反応しなくなりますが、1時間以上時間を置くと再びリセットされて反応するようになります。また、遺伝的な要因や年齢によって「またたびが効かない猫」も全体の約20%〜30%程度存在し、反応しないからといって体に異常があるわけではありません。