ボルト氏の走りを科学的に解析すると、これまでのスプリント理論の常識を覆す数々の数値が浮かび上がります。ウサインボルトの最高速度の理由は、類まれな大ストライドと、接地時間の極端な短さの両立にあります。
一般的なトップ100mスプリンターが100mを走り切るのに約44〜46歩を要するのに対し、ボルト氏はわずか41歩で駆け抜けます。トップスピードに乗った区間では、1歩のストライドが最大2.77mに達していました。さらに驚くべきは、その巨大な歩幅を維持しながら、足が地面に着いている接地時間が約0.075〜0.08秒という、短距離界でも屈指の短さを記録していた点です。
ウサインボルトの100mの走り方は、以下の4つのフェーズで完璧に体系化されていました。
- 1. 一次加速(0〜30m):長身の弱点であるスタートの遅れを最小限にするため、頭部を低く保ち、前傾姿勢を崩さずに股関節の強烈な伸展でパワーを路面に伝える「ドライブフェーズ」。
- 2. トランジション(30〜60m):徐々に上体を起こし、力任せの踏み込みから腱のバネを使った弾性スプリントへと滑らかに移行。
- 3. トップスピード維持(60〜80m):時速換算で44.72km/hを記録。側弯症による右足の強い踏み込みと左足の長い滞空時間をリズミカルに連動させ、最高速度を炸裂させる。
- 4. 減速の最小化(80〜100m):他選手が疲労によりブレーキをかける中、強靭な体幹とリラックスした脱力走法で減速率を最小限に抑え、後続を突き放す。