初めて専門店の暖簾をくぐった旅行者は、運ばれてきた白いスープを一口飲んで戸惑うことが多い。「味がしない」とスプーンを止めてしまうのだ。インスタント食品や外食産業が競い合う過剰なグルタミン酸ナトリウムの洪水に慣れた舌にとって、ソルロンタンのファーストアタックはあまりに淡白で、頼りなくすら感じられる。
だが、それこそが店側の計算であり、数百年続く韓国スープ文化の矜持でもある。卓上に鎮圧するように置かれた壺から、ミネラルをたっぷり含んだ粗塩を指先ひとつまみ。そこに青々としたネギを豪快に放り込み、黒胡椒をひと振りする。その瞬間、眠っていた牛骨の甘みとコラーゲンのコクが一気に輪郭を帯びて立ち上がる。料理人が味を決めるのではない。その日の体調、疲労度、気候に合わせて、客自らがスープの濃度を決定する。味付けを放棄しているのではなく、食べる側に委ねられた究極のパーソナライズだ。