本作が数あるエピソードの中でもトラウマ回と評される背景には、物理的な暴力とは異なる「精神的恐怖」が緻密に描かれているためです。読者が感じる思い出の抜け道の怖い理由は、主に以下の3点に集約されます。
第1に「現実逃避の無限ループ」です。辛い現実から逃れるために美しい過去へ逃げ込むと、現在へ戻る意志そのものが摩耗していきます。第2に「記憶の主観性と歪み」です。人間の記憶は自己防衛のために改ざんされる傾向があり、抜け道の中で遭遇する過去の人物や風景が、悪夢のような歪んだ存在へと変貌するリスクを孕んでいます。
第3に挙げられる思い出の抜け道の危険性は、「他者の介入による精神汚染」です。自分の記憶空間に他人が入り込む、あるいは他人の記憶を勝手に覗き見る行為は、個人のプライバシーやアイデンティティの根幹を揺るがす侵襲性を持ちます。