熱心な読者が伊坂幸太郎作品に夢中になる最大の理由、それは緻密な伏線回収と、作品の垣根を越えた登場人物のつながりです。
伊坂作品の伏線は、単なる「犯人当てのヒント」にとどまりません。登場人物たちの何気ない雑談、街角で見かけた看板、過去の些細な失敗談が、物語のクライマックスにおいて予想外の救いとして機能します。『ラッシュライフ』では、泥棒、新興宗教の信者、失業した男、不倫する画商など、仙台の街で交差する複数の人生が独立して進みながら、最後には1つの巨大な絵画のように結実します。この「構造の快感」こそが伊坂マジックの真髄です。
さらに読書体験を豊かにするのが、クロスオーバー(スターシステム)の存在です。例えば、プロの泥棒でありながら独自の倫理観と卓越した洞察力を持つ「黒澤」は、『ラッシュライフ』『重力ピエロ』『フィッシュストーリー』『残り全部バケーション』など複数の作品に顔を出します。主役として活躍することもあれば、事件の真相を解き明かす狂言回しや、偶然居合わせた通行人として物語を動かすこともあります。
また、『陽気なギャング』に登場する陣内や、公務員でありながら破天荒な言動で周囲を巻き込むキャラクターたちが、別作品の会話の中で言及される仕掛けが随所に散りばめられています。この緩やかな連帯感が、読者に「仙台という街に本当に彼らが生きている」というリアリティと親近感をもたらしています。