法的な判断基準の骨格を作ったのは、他ならぬ最高裁判所である。1957年、D・H・ロレンスの小説を翻訳した作家の伊藤整と出版社社長が起訴された『チャタレイ夫人の恋人』事件の上告審判決において、司法は今なお踏襲される「わいせつの三要件」を打ち立てた。
最高裁が提示した基準は極めて厳格だ。第一に「徒らに性欲を興奮または刺激せしめること」、第二に「普通人の正常な性的羞恥心を害すること」、第三に「善良な性的道義観念に反すること」。この三点が揃ったとき、表現物は法的な毒物とみなされる。だが、「普通人の感覚」とは誰の感覚なのか。社会の倫理観が急速に変容するなか、半世紀以上前の法理が今もそのまま適用され続けている点に、司法判断の硬直性と予測不可能性が潜んでいる。