巻き寿司づくりで最も多い悩みが「海苔の破れ」と「酢飯の押し潰し」だ。これを防ぐための決定的なポイントは、酢飯の配置と圧力の加え方にある。海苔の奥側約1.5センチを「のりしろ」として残し、手前から奥に向かって酢飯をふんわりと均一に敷き詰めるのが鉄則だ。このとき、米粒を押し潰すように強く押し広げてはならない。指先にすし酢を軽くつけ、空気を含ませるように滑らせることが、口の中で解ける食感を生む。
巻き上げの瞬間も重要である。巻きすを持ち上げる際は、具材を人差し指と中指で軽く押さえながら、一気に手前の海苔を奥の酢飯の端へ着地させる。ここで力を入れすぎると海苔に亀裂が入る。老舗の寿司職人は「巻くのではなく、四角い空洞をつくるイメージで形を沿わせる」と口をそろえる。力を分散させ、海苔が水分を吸収して柔らかくなる前に手早く巻き上げるスピード感こそが、潰れない巻き寿司の極意だ。