アニメーションでの傑出した業績と並び、田中敦子のキャリアを語るうえで外せないのが洋画の吹き替えにおける圧倒的な実績です。彼女はニコール・キッドマン、シャーリーズ・セロン、ジェニファー・ロペス、ケイト・ブランシェット、モニカ・ベルッチといった、名だたるハリウッドのトップ女優の専属(フィックス)吹き替え声優として第一線を走り続けました。
彼女の声優としての経歴は、一般企業での会社員(OL)生活を経てから養成所に入り、30歳前後で本格的なプロ声優の道を歩み始めたという、当時としても珍しい成熟したスタートでした。実社会で培われた大人の女性としての立ち居振る舞いや情緒の深みが、海外映画の複雑な心理描写に抜群のリアリズムをもたらしたのです。
映画音響監督や演出陣の間でも「田中敦子を通すと、ハリウッド女優の微細な感情の揺れが日本の観客の心に直接刺さる」と極めて高く評価されていました。海外作品で磨かれた「引き算の演技」と「息遣いの妙」が、アニメ作品の草薙素子やフランメといったキャラクターに逆輸入され、唯一無二の奥行きを与えたことは疑いようのない事実です。