『薬屋のひとりごと』のメディア展開を追う上で、多くのファンがつまずく「2大トラップ」があります。それが「コミカライズ2系列問題」となろう版の立ち位置、そして「Web版=下書き」という単純な図式の危険性です。
本作には、スクウェア・エニックス(月刊ビッグガンガン/ねこクラゲ作画・七緒一綺構成)版と、小学館(月刊サンデーGX/倉田三ノ路作画)版という、極めて異例の「2社同時コミカライズ」が存在します。ネット上では時折「どちらかがなろう版のコミカライズで、もう一方が書籍版なのか」という誤解が見られますが、これは完全な誤りです。
両コミカライズとも、原則として「ヒーロー文庫の書籍版」を原作ベースとしています。スクエニ版はキャラクターの表情美や恋愛感情の機微を強調し、小学館版は事件の謎解きプロセスや官僚社会のリアリズムを丁寧に掘り下げるという、作風・演出の差別化が図られているに過ぎません。Web版の内容がそのまま漫画化されているわけではない点は、留意しておく必要があります。
もう一つの盲点は、「Web版を追っていれば結末を先取りできる」という思い込みです。日向夏氏は書籍化に際し、プロットの展開順序や黒幕の動線すら意図的に変更することがあります。つまり、なろう版で起きた事象がそのまま書籍版の正史になるとは限らず、むしろ「Web版を読破していても書籍版で再び驚かされる」という仕掛けが施されているのです。