数々の名作で圧倒的な存在感を放ってきた名優にとっても、本作の撮影はかつてない試練の連続だったようだ。過酷な雪山ロケと密室劇の応酬について、役所は「カメラが回っていない時間すら、肺の奥が押し潰されるような重圧があった」と周囲に漏らしている。
是枝組特有の、俳優に直前まで台本を渡さない即興的な演出手法が、登場人物たちの生々しい動揺をフィルムに焼き付けた。役所が演じる男の憔悴、震える指先、そして真実に手が届いた瞬間に見せる冷徹な眼差し。その凄まじいリアリズムは、共演者たちをも呑み込み、現場の緊張感を極限まで引き上げた。