姿形が似通っているヒラメとカレイですが、食卓におけるポジションや取引相場には歴然としたヒエラルキーが存在します。その根源は、運動量の差から生じるヒラメとカレイの味の違いと、肉質の組成にあります。
海底の砂に擬態しながら獲物が上空を通りかかるのを待ち、驚異的な瞬発力で水面近くまで跳ね上がって小魚を襲うヒラメは、全身がしなやかで筋繊維の密度が非常に高い引き締まった白身を持ちます。旨味成分であるイノシン酸が豊富で、適度な歯ごたえと上品な甘みがあるため、「ヒラメは刺身」で食べるのが日本料理における至高の選択とされてきました。
一方のカレイは、海底を這うように移動し激しい遊泳を行わないため、身質は水分が多く柔らかです。生食ではやや身が緩く感じられる種類が多いものの、加熱すると肉繊維がふんわりとほぐれ、皮下や骨の周りに蓄えられたコラーゲンとゼラチン質が溶け出して濃厚なコクに変わります。そのため、甘辛い醤油出汁で身を締める「カレイは煮付け」という調理法が最も適した王道として確立されたのです。
この食味と用途の違いは、そのままヒラメとカレイの値段の差へと直結しています。2025年から2026年にかけた東京・豊洲市場および主要産地市場の取引統計によると、天然ヒラメ(特に晩秋から真冬の『寒ビラメ』)のキロ単価は3,000円から7,000円超、高級料理店向けの活魚であれば1万円を超える高値で取引される最高峰の高級魚です。一方、マコガレイなどの一部高級種を除けば、一般的なカレイ類(マガレイ、宗八カレイ等)はキロあたり800円〜1,800円前後と大衆的な価格帯で推移しています。
日常の居酒屋や回転寿司で「えんがわ」が安価に提供できるのも、ヒラメではなく、次項で解説する深海性のカレイ科大型魚が使われているという産業構造が背景にあります。