ロックファンの間で数十年にわたり語り継がれてきた最大のミステリーが、「牛の舌 移植 噂」です。1970年代から1980年代にかけて、海外のタブロイド紙や音楽ファンの口コミを通じて「ジーン・シモンズはパフォーマンスのために牛の舌を手術で接ぎ木した」というセンセーショナルな話が世界中に拡散しました。
現代の医療常識に照らし合わせれば明白ですが、「牛の舌移植説」は100%の都市伝説です。異なる生物種の間で臓器や組織を移植する「異種移植」は、2020年代半ばの高度な再生医療や遺伝子改変技術をもってしても極めて高い免疫拒絶反応を伴います。血流の維持、複雑な舌下神経の吻合(ふんごう)、味覚や運動機能の再建など、当時の医療技術で牛の筋肉組織を人間に移植して自由に動かすことなど到底不可能です。
一方で、より現実味を帯びた仮説として浮上したのが「外科手術によって舌の可動域を広げたのではないか」という指摘でした。具体的には、舌の裏側と口の底をつなぐヒダを切開する「ジーン・シモンズ 舌小帯切除説」です。
舌小帯が生まれつき短い「舌小帯短縮症」の治療として、ヒダを切除して舌の動きを滑らかにする小手術は歯科や口腔外科で日常的に行われています。もし健常な人間がこのヒダを深く切除すれば、舌の突き出せる長さが数センチ伸びる可能性は理論上否定できません。しかし、この「手術の真相」についても、シモンズ本人がメディアや自伝で明確に否定しています。
シモンズは2001年に出版した自叙伝『KISS and Make-Up』の中で、自身の舌について極めて率直な告白を残しています。
「子どもの頃、女の子たちとふざけ合っている時に、自分の舌が他の誰よりも異常に長いことに気づいた。それだけのことだ。手術も受けていなければ、牛の肉片を縫い付けたわけでもない」
つまり、ジーン・シモンズの舌がなぜ長いのかという問いに対する医学的かつ客観的な答えは、「極めて稀な遺伝的・解剖学的特徴(生まれつきの巨舌傾向と柔軟な口腔底)に恵まれた天性のものである」という事実に帰着します。