物理質問掲示板や大手予備校の個別指導ブースにおいて、毎年最も多くの相談が寄せられるのが弾性力マイナスの理由と、エネルギーの符号をめぐる混乱です。
学校の教科書でフックの法則を学ぶ際、あるページでは $F = kx$ と書かれ、ベクトルや座標軸を意識したページでは $F = -kx$ と表記されます。この表記のブレが生徒の疑心暗鬼を生む最大の要因となっています。ばねの弾性力は、常に「変位を打ち消して自然長へ戻そうとする向き(復元力)」に働きます。したがって、自然長を原点 $x = 0$ として右向きに $x$ 軸をとった場合、物体を右側($x > 0$)へ引っ張ると弾性力は左向き($-kx$)に働き、左側($x < 0$)へ押し縮めると弾性力は右向き($+kx$)に働きます。つまり、力のベクトル方程式として厳密に書くならば、符号は常に変位と逆向きのマイナスがついた $F = -kx$ となるわけです。
ここで多くの学習者が「ばねを縮めたとき($x < 0$)、エネルギーもマイナスになるのではないか」という誤解に囚われます。しかし、エネルギー公式の変位は $x^2$ と二乗されています。ばねを $+5\,\text{cm}$ 伸ばしたときの位置エネルギーも、$-5\,\text{cm}$ 縮めたときの位置エネルギーも、計算結果は全く同じ正の値になります。
物理的なリアリティに立ち返れば、ばねは「伸ばした状態」から手を離しても勢いよく飛び出しますし、「縮めた状態」から手を離しても同様に勢いよく飛び出します。どちらの状態であっても、物体を加速させて運動エネルギーを生み出す潜在能力(ポテンシャル)を秘めていることに変わりはありません。したがって、ばねの伸びと縮みのどちらにおいても、弾性力による位置エネルギーは必ずゼロ以上の正の値をとるのです。