2020年代半ばから2026年に至る現在の睡眠医療において、主役の座を完全に奪取したのがオレキシン受容体拮抗薬(デエビゴ、ベルソムラ、クービビック)です。日本睡眠学会が提示する最新の治療指針でも、慢性不眠症に対するファーストチョイスとして強力に推奨されています。
従来のベンゾ系・非ベンゾ系が「覚醒している脳を鎮静剤で無理やり眠らせる(麻酔に近いアプローチ)」だったのに対し、オレキシン受容体拮抗薬は「日中に出ている覚醒物質オレキシンの受容体を塞ぎ、夜間の覚醒スイッチをOFFにする」という全く異なる作用機序を持っています。本来人間が持つ生体リズムに寄り添った睡眠を導くため、自然な眠気をもたらし、深い睡眠(ノンレム睡眠)の割合を削らない点が最大のアドバンテージです。
特筆すべきは身体的依存や離脱症状(禁断症状)が極めて生じにくい点です。長期間服用した後に減薬・休薬しても、ベンゾ系で見られるような激しい焦燥感や反跳性不眠(飲む前よりひどい不眠になる現象)に見舞われるリスクが大幅に低減されています。
もちろん無敵の万能薬ではありません。覚醒スイッチを阻害するメカニズム上、レム睡眠(夢を見る浅い眠り)が活性化しやすく、飲み始めの数日から数週間に「やたらと生々しい悪夢を見る」「金縛りに遭う」といった特有の副作用が生じることがあります。また、半減期自体は長いため、体質によっては翌日の午前中に重い眠気が残るケースもあり、処方初期の細やかな用量調整(2.5mg、5mg、10mg)が医師の腕の見せ所となります。