冷しゃぶの仕上がりを左右する最大の要因は、豚肉に含まれるタンパク質と脂質の熱変化にあります。豚肉の主成分であるタンパク質(ミオシンやアクチン)は、68℃を超えると急激に収縮し、内部の水分を外へ押し出してしまう性質を持っています。ぐらぐらと沸騰した100℃の熱湯に肉を投入すると、繊維が瞬時に縮み、パサパサとした硬い食感に仕上がってしまいます。
さらに見落とされがちなのが、茹で上げた後の冷却方法です。氷水に直接落として急冷すると、豚肉の飽和脂肪酸が白く凝固し、口の中で脂が溶けずに蝋(ロウ)のような不快な口当たりを残します。柔らかくしっとりした冷しゃぶを作るための黄金ルールは以下の3ステップです。
① お湯の温度は70〜80℃を徹底キープする
鍋にたっぷりのお湯を沸騰させたら、弱火にするか、火を止めて水(差し水)を50〜100mlほど注ぎ、沸騰がおさまった状態(鍋底から細かい気泡が立ち上る程度)を作ります。ここに酒大さじ2と砂糖小さじ1(または片栗粉を極薄く肉にまぶす)を加えると、保水効果が高まり肉の縮みを防げます。
② 肉は1枚ずつ広げて泳がせるように火を通す
重なった肉を一気に入れると温度ムラが生じます。1枚ずつ丁寧にお湯にくぐらせ、ピンク色の赤みが消えて全体が白濁した瞬間に引き上げます。加熱時間は薄切り肉であればわずか15〜20秒程度で十分です。
③ 氷水は厳禁!常温の水または冷水に数秒くぐらせて水気を切る
引き上げた肉は、氷水ではなく常温の水にサッと通して粗熱を取るか、バットに広げてうちわや自然放冷で冷まします。食べる直前にペーパータオルで余分な水分をしっかりと拭き取ることが、つゆを薄めず旨味を凝縮させるプロの鉄則です。