作中で「秋名峠」として描かれるコースの舞台は、群馬県高崎市と渋川市にまたがる群馬県道33号渋川松井田線です。作者のしげの秀行氏がこの地をメインステージに選定した理由には、地理的特性とドラマ性の絶妙な合致がありました。
第一の理由は、起伏に富んだコースレイアウトの完成度です。榛名山は、山頂のカルデラ湖である榛名湖から伊香保温泉街へと下る約7kmの区間に、高速ストレート、リズミカルな中速コーナー、そして勝負のクライマックスとなる急峻な連続ヘアピンカーブが凝縮されています。公道レースの舞台装置として、これ以上ないドラマチックな要素が揃っていました。
第二に、温泉街と峠道が直結する生活感のリアリティが挙げられます。拓海の実家である「藤原とうふ店」から毎朝、榛名湖畔のホテルへ豆腐を配達するという設定において、麓の伊香保温泉街と山頂を結ぶ県道33号のルートは極めて自然な日常の動線でした。「日常の配達業務が知らぬ間に天才ドライバーを育てていた」という物語の根幹を支える舞台として、榛名山は必然の選択だったと言えます。
なお、「榛名(はるな=春)」に対して「秋名(あきな=秋)」と命名されたのは、実在の地名を絶妙にぼかしつつ季節を対比させた、しげの氏ならではのネーミングセンスによるものです。