ニンニクを摂取した直後から数時間後にかけて生じる耐え難いニンニク食べ過ぎ腹痛やニンニク食べ過ぎ下痢。その主たる引き金は、ニンニクの細胞が破壊された際に生成される刺激物質「アリシン」にあります。ニンニクに含まれる無臭の成分「アリイン」は、刻む、すりおろす、噛み砕くといった物理的刺激を受けると、酵素アリイナーゼと反応して強烈な臭気と刺激性を持つアリシンへと瞬時に変化します。
アリシンは本来、自然界において害虫やカビ、細菌から植物自身を守るための生体防御化学兵器です。その殺菌力は凄まじく、希釈した状態であってもチフス菌やコレラ菌を抑制するほどの力を持っています。しかし、この強力すぎる殺菌・刺激作用が人間の消化管内へ無防備に放り込まれると、アリシン過剰摂取によって自らの消化器組織に牙を剥くことになります。
第1の異変は、直接的な胃粘膜刺激です。胃の内壁を保護している薄い粘液のバリアをアリシンが容赦なく突破し、胃壁の上皮細胞を直接攻撃してただれや急性の炎症を引き起こします。これにより、差し込むような鋭い胃痛やニンニク食べ過ぎ吐き気が突発的に引き起こされます。
第2の異変は、腸管内における腸内環境悪化です。強烈な殺菌作用は病原菌だけでなく、腸内の平穏を保っているビフィズス菌や乳酸菌といった有用な善玉菌までも無差別に全滅させます。腸内細菌叢のバランス(腸内フローラ)が一気に崩壊(ディスバイオーシス)を起こした腸管は、浸透圧の調整機能を失い、水分を過剰に分泌して内容物を緊急排出させようと激しく蠕動します。これが、水分を一切吸収できないまま水様便となって噴出する激しい下痢の正体です。
さらに深刻なのが、あまり知られていないニンニク貧血の理由です。アリシンをはじめとするニンニク由来の有機硫黄化合物が血液中に大量に移行すると、赤血球の細胞膜を酸化させて損傷を与えます。すると、酸素を全身に運ぶヘモグロビンが変性し、赤血球そのものが破壊される「溶血性貧血」に似た現象が体内で進行します。食後に生じる激しい立ちくらみ、めまい、全身の脱力感、息切れは、単なる胃腸の疲れではなく、血液レベルで酸素運搬能力が一時的に低下している危険信号なのです。