実験において、多くの学習者が抱く疑問が「なぜ水だけでなく水酸化ナトリウムを溶かすのか」という点です。「水そのものを分解するなら、混じりけのない純水のほうが良いのではないか」と考えるのは極めて自然な発想といえます。
しかし、純度の高い水は電気をほとんど通しません。水分子自体もごくわずかに電離して水素イオン(H⁺)と水酸化物イオン(OH⁻)を生じますが、その濃度は25℃においてわずか10⁻⁷ mol/L程度にとどまります。これでは電子を運ぶキャリア(荷電粒子)が圧倒的に不足し、通常の電圧を印加しても電流は実質的に流れません。
そこで不可欠となるのが電解質の役割です。水酸化ナトリウム(NaOH)を水に溶かすと、次のような電離式に従って水中で完全に電離します。
NaOH → Na⁺ + OH⁻
生じたナトリウムイオンと水酸化物イオンが水中を移動することで、溶液全体の電気伝導率が飛躍的に跳ね上がります。水酸化ナトリウムが選ばれる最大の利点は、ナトリウムイオンが極めてイオン化傾向が高く、水溶液中で還元されて金属ナトリウムとして析出することがない点にあります。水酸化ナトリウム自体は消費されず、あくまで電子の橋渡し役に徹するため、水分子だけを効率よく連続分解できるのです。