『麦と兵隊』を深く理解するためには、中国戦線における麦と兵隊 徐州作戦 歴史的背景と、前後して執筆された関連作との関係を把握する必要があります。徐州作戦は、北支那方面軍と中支那派遣軍を合流させ、要衝・徐州に集結した中国軍を包囲殲滅することを目指した大規模作戦でした。補給路が極度に伸び切った過酷な条件下で、兵士たちは黄砂と泥水に苛まれながら泥沼の消耗戦を強いられました。
火野は、自身の従軍体験をもとに3つの傑作を発表します。いわゆる「兵隊3部作」と呼ばれる作品群ですが、麦と兵隊 土と兵隊 花と兵隊 違いは、描かれた作戦の性格と兵士の階層に明確に現れています。
3部作を通じて見ると、火野が戦闘の華々しさではなく、兵士が足をつける「土」、行軍を阻む「麦」、そして泥臭い輜重隊を象徴する「花」という具象物を通して、戦争の圧倒的な物質性を捉えようとしていた姿勢がはっきりと読み取れます。