乙骨憂太を語る上で欠かせないのが、常に彼の背後に寄り添う存在「リカちゃん」の変遷です。映画興行収入138億円を突破し社会現象となった『劇場版 呪術廻戦 0』において、乙骨は自身のトラウマと向き合い、大きな精神的成長を遂げました。
前日譚のクライマックスで明かされた戦慄の真実は、「里香が乙骨を呪っていたのではなく、乙骨が里香の死を拒絶して呪い、縛り付けていた」という因果の逆転でした。幼少期に交通事故で惨殺された祈本里香の魂に対し、無意識に膨大な呪力を注ぎ込んで現世に繋ぎ止めていたのは乙骨自身だったのです。夏油傑との死闘を経て自身の非を認め、愛を注ぐ形で「主従制約」を解いたことで、本物の祈本里香の魂は完全に解呪され、穏やかな笑顔とともに成仏を遂げました。
では、なぜ本編の「渋谷事変」や「死滅回游」、そして新宿決戦に至るまでリカちゃんが存在し続けていたのでしょうか。その違いは作中でも明確に区別されています。
現在乙骨が使役しているのは、漢字の「里香」ではなくカタカナ表記の「リカ」です。これは祈本里香の魂そのものではなく、彼女が成仏した際に遺された「呪霊の抜け殻」であり、乙骨の呪力によって形作られた意志を持つ式神のような存在です。この「外付けリカ」が存在することで、乙骨は自身の脳に過度な負担をかけることなく、膨大な術式のストックや呪力を安全に外部保存できています。
前日譚から一貫して乙骨憂太の声を担当した声優・緒方恵美の怪演は、この「愛と呪いの二面性」を見事に表現しきりました。気弱で自己評価の低かった少年が、大切な仲間を守るために「失礼だな、純愛だよ」と言い放つまでの変化は、観客の心を鷲掴みにしました。2026年現在もなお、緒方恵美が吹き込んだ乙骨の「繊細な優しさと底知れぬ狂気」の同居は、日本アニメ史に残る名演として高く評されています。