まずは、この歌の全体像と正確な文法構造から紐解いていきましょう。学校教育や一般の書籍では「願わくば」と表記されるケースが目立ちますが、原典の歴史的仮名遣いでは「願はくは花の下にて春死なむ」と表記されます。
この上の句(五・七・五)に続く「願わくば花の下にて春死なん 下の句」は、「その如月の望月のころ」(七・七)です。一首を合わせると次のようになります。
願はくは 花の下にて 春死なむ その如月の 望月のころ
(ねがわくは はなのもとにて はるしなむ そのきさらぎの もちづきのころ)
この歌の現代語訳は以下の通りです。
【現代語訳】
「できることなら、春の盛りに咲き誇る桜の木の下で死にたいものだ。ちょうどあの旧暦2月の満月のころ、釈迦が入滅されたその日に――」
短歌の技法としては、二句目の「春死なむ」で意味やリズムがいったん切れる「二句切れ」の構造を持っています。「死なむ」の語尾「む」は、単なる推量ではなく詠み手の強烈な意志を表す助動詞です。自らの意志でその瞬間を選び取りたいという、静かながらも揺るぎない覚悟が刻まれています。
そして「その如月の望月のころ」という表現。如月(きさらぎ)は旧暦の2月を指し、現在の太陽暦(グレゴリオ暦)では概ね3月下旬から4月中旬頃に相当します。まさに桜が咲き乱れる季節です。望月(もちづき)とは満月のこと。旧暦では毎月15日前後が満月となります。つまり、「願わくば花の下にて春死なん 意味」の根幹には、「満開の桜が咲き誇る春、旧暦2月15日の満月の夜に命を終えたい」という、ピンポイントかつ明確な日時指定の祈りが込められているのです。