ばいきんまんを象徴するフレーズといえば、「ハヒフヘホ〜!」「バイバイキ〜ン!」が真っ先に思い浮かびます。しかし、これらは最初から台本に細かく指定されていたわけではありません。
関係者の回想や本人のインタビュー証言によると、アニメ開始当初の台本には単に「高笑いをする」や「笑い声」としか書かれていませんでした。そこで中尾隆聖は、「普通に『ハハハ』と笑っても面白くない。五十音のハ行を使って感情表現ができないか」と考え、息を吸い込みながら喉を鳴らす独特の発声法とともに「ハ・ヒ・フ・ヘ・ホ〜!」という怪調な笑い声を編み出しました。
中尾は「ハ行」の母音ごとに、以下のような感情のグラデーションを込めて演じ分けていると語っています。
- 「ハ」:純粋な喜びや、いたずらを思いついた時の高揚感
- 「ヒ」:相手を小馬鹿にするような皮肉や嘲笑
- 「フ」:企みがうまくいきそうな時の不敵な笑み
- 「ヘ」:ピンチに陥った時の照れ隠しや焦燥感
- 「ホ」:驚きや予想外の展開に対するリアクション
単なる記号的な悪役の哄笑ではなく、五つの母音に喜怒哀楽を乗せるという舞台俳優出身ならではの緻密なアプローチによって、ばいきんまんは「憎めない悪役」として日本中の子どもたちの心を掴むことになりました。