本作が投げかける最大の謎は、主人公テディ・ダニエルズが陰謀に巻き込まれた正常な保安官なのか、それとも妄想に囚われた凶暴な精神疾患者なのかという二者択一です。この問いに対する明確な結論は、彼自身が精神病院アッシュクリフに収容されている最重要危険人物、アンドリュー・レディスその人であったという事実です。
テディが追っていた失踪患者「レイチェル・ソランドー」や、彼が妻を殺した犯人として激しく憎んでいた放火魔「アンドリュー・レディス」という名前は、すべて彼自身の罪悪感から生まれた防衛的な虚構でした。精神科医のジョン・コーリー院長が灯台で突きつけた決定的な証拠が、アルファベットの文字を並び替える「アナグラム」です。
「EDWARD DANIELS(エドワード・ダニエルズ)」の文字を並び替えると「ANDREW LAEDDIS(アンドリュー・レディス)」となり、失踪したとされる女性患者「RACHEL SOLANDO(レイチェル・ソランドー)」は、亡き妻「DOLORES CHANAL(ドロレス・シャナル)」の並び替えにすぎませんでした。彼は自らが犯した「躁うつ病を患う妻の異変を放置し、3人の子どもを池で溺死させられ、その末に自らの手で妻を射殺した」という耐えがたい現実に精神が耐えきれず、自らを正義の保安官に仕立て上げる壮大な妄想の世界へ逃げ込んでいたのです。
病院全体で行われていた不可解な捜査劇は、テディを精神病院に閉じ込める罠ではなく、コーリー院長と主治医シーアン医師が仕掛けた最後の大規模ロールプレイ治療でした。当時、凶暴な患者に対して主流となりつつあった前頭葉白質切除術(ロボトミー手術)の非人道性を嫌うコーリー院長が、理事会からの手術要請を退けるため、アンドリューの妄想を島全体で演じ切らせて現実に直面させようとした賭けだったのです。