中天新聞が免許取り消し(正確には6年ごとの放送免許更新拒絶)に追い込まれた直接の引き金は、2020年11月18日に台湾の通信・放送監督機関である台湾 国家通訊伝播委員会(NCC)が下した「審議員7名全員一致による不更新決定」でした。公式発表資料によると、決定打となった理由は単なる政治的スタンスの違いではなく、「事実確認(ファクトチェック)義務の度重なる違反」と「筆頭株主・経営陣による編集権への露骨な介入」という2点に集約されます。
中天新聞を傘下に収めるのは、中国本土で米菓・飲料ビジネスを展開し巨万の富を築いた実業家・蔡衍明(ツァイ・エンミン)氏率いる「旺旺中時媒体集団」です。蔡氏は公然と中台統一を支持する立場を表明しており、中天新聞の論調も急速に親中・反民進党(与党)へと傾斜していきました。特に2018年の高雄市長選から2020年総統選にかけて、親中派の国民党候補・韓国瑜氏に関する報道時間が局全体の過半数を占める異常事態が発生。「韓国瑜氏の頭上に瑞祥(めでたい兆し)の雲が現れた」といった科学的根拠を欠く神格化報道や、農産物輸出に関する誤報を垂れ流し、NCCから累計1000万台湾元(約4500万円)を超える罰金処分を乱発される事態に陥っていました。
さらに世論を決定的に硬化させたのが、流出したグループチャットの内部告発です。蔡衍明氏本人が編集幹部らに対し、特定の政治家を執拗に攻撃し、自陣営に有利なアングルで報じるよう日常的に指示を出していた事実が露呈しました。台湾の放送法が定める「ニュース編集権の独立」および「社内自浄メカニズム(独立審査員制度)」が完全に形骸化していた現場の実態が、NCCによる「改善の見込みなし」という極刑判断を決定づけたのです。