「本当に美味い生を喰らいたいなら、朝の空と海の波を見ることだ」。半世紀にわたり相模湾に船を出してきた老漁師は、日に焼けた顔をほころばせながらそう語る。
シラス漁は天候に極めて敏感だ。南風が強く波が高い日は出漁できず、生しらすの提供自体がストップする。逆に、穏やかなナギの日の早朝に水揚げされたシラスは、氷水で瞬時に締められ、身に一切の濁りがない。鮮度の良い個体は、丼の上でピンと立ち、尾びれまで美しい弧を描く。身が白く濁っていたり、形が崩れてペースト状になっているものは、時間の経過を物語るサインだ。
海の機嫌を読み、自然の恵みを素直に受け取る。地元を知り尽くした漁師たちの言葉には、鮮度という刹那の価値を追い求める者だけが知る確固たる真実がある。